人口維持および地球環境保護には、気候変動に耐えうる新たな穀倉地帯が不可欠である
「食生活を変えず、生産性を改善せず、無駄を削減しないのであれば、2050年には世界の人口を維持するためにロシア国土と同規模の新たな土地が必要になる」 - NEOM食料担当責任者
今後30年は地球の運命を左右するでしょう。吉と出るか凶と出るかは、主に食料の生産、加工、消費のあり方によって決まることになります。食の未来は人類の未来です。世界人口は2050年までに97億人に達すると予測されており、この増加する人口を養うには大きな変化が必要になります。
天然資源の危機
実際に、世界人口の増加に伴って、食糧需要も増加しています。国連食糧農業機関(FAO)によれば、食糧需要の増加は人口の増加よりも顕著に早くなるでしょう。所得が増えたことで動物性タンパク質への欲求が高まり、食糧資源の枯渇につながってしまいます。結果として、私たちが食生活を変えず、生産性を改善せず、フードロスを削減しないのであれば、2050年には世界人口を養うのに十分な食料を生産するために、1700万平方キロメートルの土地が必要になるのです。ロシア国土に匹敵する広さです。
NEOMでは、食料システムに携わる技術者、科学者、イノベーターたちが日々警鐘を鳴らし、来るべき脅威を解決する方策を見つけ出そうとしています。こうした課題は、現在の私たちにも影響を及ぼしています。課題は山積し、今後数十年後に悪化するほかない状態です。人口増加だけでなく、気候変動も重要な課題です。食料システムは気候変動を発生させる最大の要因の一つだからです。
破綻したシステム
食料システム全体が気候変動の大きな原因となっています。化石燃料よりも多くの炭素を排出するためです。また、現在の農業により土壌と淡水資源が枯渇しようとしています。肥料の過剰使用により、海、川、湖の一部では生き物が住めなくなりつつあります。また、漁業の90%は存続が危ぶまれています。乱獲により海洋生物の多様性が失われつつあります。
加えて、世界の穀倉地帯は機能不全に陥ろうとしており、耕作可能な土地は世界的に縮小しつつあります。その土地に依存する人口が急増し続けているのとは実に対照的です。つまり、これらの穀倉地帯と従来のサプライチェーンに代わるものに頼るざるを得ないのです。現在、穀倉地帯やサプライチェーンはパンデミックや世界的な紛争により混乱が生じています。さらに重大なこととして、気候変動による自然災害があります。例えば、4つの主要作物(小麦、トウモロコシ、米、大豆)は平均的な食事のカロリーのほぼ半分を構成しており、米と小麦はそれぞれ19%、18%を占めています。米国、中国、ロシア、ウクライナは、世界の農作物の60%から70%を供給しています。2010年には、過去130年間で最も顕著に気温が上昇し、一連の干ばつが発生しました。これによりロシアの小麦収穫量が激減しました。これを受けてロシアは国内供給を確保するため、1年近く穀物輸出を一時禁止しました。また、2022年5月にはインドが熱波により小麦の輸出を禁止しました。
複数の機能不全に陥った穀倉地帯の悪影響を防ぐには、炭素排出量を削減しながらも、他の地域でより多くの穀物生産量を高め、異常気象の影響を受けにくいように生産地域を分散させる必要があります。
ソリューションとしてのテクノロジー
食料は世界中の人々をつなぐ糸のようなものです。地球を一変してしまうようなあらゆる課題に関係するのが食料です。1万年もの間、農家はひとつのことを求められてきました。つまり、より多くの食料を生産することです。現在は歴史的に見ても稀な状況にあります。つまり、農家がさらに生産量を増やす必要があるだけでなく、適応能力の高い生産システムを通じて、持続可能な方法で食料生産を増強する必要があるからです。特に中東では、土地と水の使用を削減しなければなりません。多くの課題がありますが、地球環境を保護しつつ、食料の質と量の改善に向けた画期的なソリューション開発について私たちは楽観しています。そのソリューションを用いて、世界が現在、そして将来直面する資源不足に対応可能な気候変動に耐性を持つ食料産業を通じ、あらゆる人に安全で栄養価が高く持続可能な方法で生産された食料を確保します。
幸運なことに、NEOMは急速に成長しているグローバルコミュニティです。イノベーター、起業家、科学者たちが集い、世界最大の問題のいくつかを解決するため新たなアイデアの開発、試験、商業化に取り組んでいます。NEOMは活気ある研究所であるとも、実験室であるとも言えるでしょう。ここで、生産から消費まで食物連鎖のあらゆる側面を含む、暮らしと仕事に対する新たなアプローチを試すことができるのです。
現在、人類を養うための新しい技術が急ぎ求められています。それは今後数十年のためでもあります。NEOMでは、食料生産による環境負荷を低減しつつ、食料の質と量を改善できる新技術を開発・試験しています。一例として、管理環境下での生産システムがあります。これを使用すれば作物の栽培に必要な水を大幅に削減できます。露地栽培では60リットル、温室での水耕栽培であれば15リットルの水が必要になります。NEOMで設計しているような、完全制御環境下での生産システムであれば、わずか4リットルで済みます。また、責任ある持続可能な養殖を進めるため最先端のバイオテクノロジーを活用し始めています。また、遺伝子編集により干ばつに適応できる品種開発も行っています。
グローバルモデルとしてのNEOM
しかし、食料生産における消費者行動の役割も考慮しなければなりません。収入が増えると動物性タンパク質に対する需要が増え、それに伴い資源が枯渇してしまうためです。消費者に好まれる植物由来の選択肢をより多く提供し、最終的には食事に変化をもたらすことが重要です。また、フードロスを削減して、持続可能な供給を確保することは言うまでもありません。
こうした解決策は多くの場所で求められています。サウジアラビア北西部にあるNEOMでは、高温で乾燥した気候という課題に直面しています。多くの国が現在直面している課題は、時間の経過とともにますます多くの国が直面することになるでしょう。その原因は気候変動です。土壌や淡水資源の枯渇、海洋生物多様性の喪失、従来型サプライチェーンの崩壊など、私たちが取り組んでいるその他の課題は世界中に影響があるものです。食料システムが炭素排出量の相当部分を占めていることから、特定気象条件への適応力、炭素排出の削減、気候変動への耐性を備えた分散型産業を創出しなければなりません。
NEOMで成し遂げようとしていることは、食料システムを基礎から作り上げる一生に一度の機会と捉えています。さらに重要なことは、サウジアラビアの人々に恩恵をもたらす新たなシステムと、いままでにないソリューションの共同設計によって、より良い世界の未来図を作り出せる機会だという点です。そして、その未来図は他の場所での活用や大規模化することで、地球に暮らすすべての人に恩恵をもたらすことができます。NEOMが、食料生産システムを採取型から再生型へ移行するためのグローバルモデルにしたいと考えています。また、NEOMで生産された食品が、健康や地球環境を気遣う新たな消費者だけでなく、美味しい料理を味わいたい消費者の舌鼓を打つようにしていきたいと思います。その実現に向けて、迅速かつ大規模に行動しなければなりません。無駄にする時間はないのです。
フアン・カルロス・モタマイヨール博士はNEOMの食料セクターの責任者です。これまでコカ・コーラやマーズなど企業に所属し世界各地での勤務経験があり、政府アドバイザーとしての役割も務めています。