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NEOMの壮大なビジョンの中で自然保護区がどのような位置付けなのか、そして自然保護区がプロジェクトの成功にどれほど必要不可欠なのか説明していただけますか?
NEOMの自然は信じられないほど、そして驚くほど壮大です。ほとんどの方はこの地域は退屈な砂漠だと考えていると思いますが、決してそうではありません。非常に澄んだ美しい水辺がありますし、ビーチから泳いでサンゴ礁や色鮮やかな魚たちに囲まれるといったこともできます。陸地には2500メートル級の山々があり、冬には雪も見られます。そして、素晴らしい赤い砂丘や岩でできた迷路があるアッパーバレーに立ち寄ることができます。そこはとにかく美しく、神秘的で威厳のある場所です。1日ですべてを見て回ることができます。本当に素晴らしい場所です。ですから自然はNEOMが提案する核となる価値の一つであり、それがいかに重要かについて認識し、ここを開発する全体アプローチにおいて自然を守るというコミットメントを明言してきました。開発面積をこの地域の5%に限定します。つまり、95%の自然は保護されます。このようにして保護に値するものとして自然に対するコミットメントを確固たるものにしています。地球のためだけでなく、NEOMを家と呼び、休日に訪問する人々へ核となる価値を提供します。
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チームがまず取り組んでいることを説明してもらえますか?
最も重要なものの一つは、自然保護に対するコミットメントです。NEOMの敷地95%は自然のために保護されるという全体の構想に基づくものです。自然保護プログラムを国立公園のようなアクティブなものにしようと考えていますが、どこかにあるような国立公園は目指しません。自然にあふれ、人々がそこに来て体験できるようなものにするつもりです。ですから、これ以上ない規模での自然保護プログラムも構想していますが、観光に来られる方が楽しめるように自然を活かした体験ができるようなものも考えています。
この地域には産業公害の被害を受けていない陸地や海があるため、壮大な規模での自然保護を行うことができます。しかしそうは言うものの、ラクダ、ヒツジ、ヤギの過放牧が行われたり、地下水が過剰に汲み上げられたりして、生物にとっての実際の環境は砂漠化したこともあり少し劣化していますが、自然を取り戻すことはできると認識することが大切です。
そのため管理体制を敷いて、まず生息環境の修復に集中する予定です。NEOMと同規模でこうした取り組みが行われている場所はほとんどありません。地下水の自然な流れを復元して2万5千キロメートルにおよぶ健全な生息環境を取り戻すつもりです。また植物も保護され、狩猟禁止法も施行されます。草地が再び自由に育ち始めるように、家畜の放牧も減らします。
しかしこれだけでは十分とは言えません。人類は世界中の環境に大きな負担をかけてきています。そのため、環境を復元する上でより積極的な役割を果たす必要があります。ですから私たちがまず取り組むことは、世界で最も野心的な再野生化プログラムの導入です。このプログラムは再緑化プログラムから始まり、10年をかけて1億本の草木を復元していくというものです。それにより、かつてのような豊かな生態系を取り戻す流れに弾みをつけていきます。
上で説明した緑化が始まれば、小さな動物たちがたくさん戻って来始めるでしょう。そしてマウンテンガゼル、オリックス、アイベックスなどの大きな動物たちが戻ってくるようにしていき、最終的にはチーター、ヒョウ、アラビアオオヤマネコなどの固有種が戻ってくることを願っています。多くの人は野生生物はアフリカにいるのであって、アラビア半島にはいないと考えていますが、実は多くの野生動物が生息していたのです。大規模に再野生化することは非常に野心的な取り組みですが、NEOMでは大きな挑戦として取り組んでいます。
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NEOMは土地の95%を自然に割り当てることを目指していますが、それは何を意味するのでしょうか?また、どのようにして地域全体を再野生化・再緑化することができるのか説明していただけますか?
このプログラムは、私たちの自然保護への取り組み全体を支える、あるいは基礎となる非常に重要な要素です。私たちはこれらの地域の状況に適応した在来種のみを使用して、最小限に抑えつつ最大限の成功を収めることができます。また、私たちは継続的な植林アプローチを採用していきますが、まず砂を固めて他の植物の生存に適したものにし、土壌に栄養分を戻して水分を留めることができる種から始めていきます。
これにより後続の種が育成しやすい条件を整え、改善していきます。生態学に基づく方法を構築すれば、自立型のシステムになります。植生を増やすと地表付近の気候が変化します。湿気が移動する方法を変えることになります。そして、私たちの緑化へのアプローチでは、植生の密度を高め、土地の上に生じる日陰の量を増やすコアエリアに焦点を当てます。これにより熱の量が減り、より多くの湿気が海から排出され植物が育ちやすくなります。こうした好循環が生じることで、植物の生存や新種の育成が実現しやすくなります。
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再生型ツーリズムは新しい概念ですが、ここでの考え方について詳しく教えていただけませんか?
持続可能な観光は本物のトレンドです。その背景にある考えは、ある場所を訪れるけれども、その環境を悪化させないということです。素晴らしい考えではありますが、十分だとは言えません。地球環境に必要なことは有害なものを避けることだけではありません。再生型ツーリズムはさらに次の段階に進み、すべての訪問者が自然環境の改善に積極的に貢献するものです。植林や動物繁殖プログラムへの資金提供、あるいは自然保護区の環境改善に役立つプロジェクトなどがあります。こうしたことが再生型と言えるものです。あなたがここから去る時に、あなたが貢献したことをすべて明記したレシートを受け取ることができます。つまり、あなたがNEOMを訪れたことでここの環境が改善したということです。
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訪問者を管理するツールと、テクノロジーによる訪問、空間、および交通システムを組み合わせるというのは魅力的なお話です。なぜこれまで誰もやったことがないのでしょうか?
理由は二つあります。第一に、重要なテクノロジーが成熟し、大規模になってきているということです。第二に、世界のほぼすべての国立公園には、新しいテクノロジーを統合しにくいインフラとシステムを導入する計画と意思決定の古い仕組みがあります。
NEOMでは、大規模な国立公園をゼロから計画する機会を得られました。これにより、観光や訪問者の体験に対してより先進的なアプローチを取ることができます。つまり、新しいテクノロジーを取り込み、それらを実現するためのロードマップを手にすることができるのです。私たちは新しいアイデアやテクノロジーの導入を迅速に進められる優位な立場にあります。
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どのようなパートナーがこのプロジェクトに参加していますか?
私たちは、環境・水資源・農業省の下部組織であるサウジアラビア国立野生生物センターおよび国立植生開発センターと非常に緊密に協力し、あらゆる保護活動の設計と実施において主要なパートナーとなっています。また、ムハンマド・ビン・サルマン王子自然保護区などの近隣地域と緊密に協力して、保護に対する共同アプローチを形成しています。
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自然保護区、保護遺産、国立公園については、世界中にある他のものとどのように違うのでしょうか?
景観の多様性とは別に、NEOMの素晴らしい点の1つはそこに根差す文化の歴史です。私たちは、文化遺産チームの仲間たちと協力することで、人々が生活し、景観を利用してきた文化の歴史に命を吹き込み、詳らかにしたいと考えています。私たちが利用しているスチュワードシップの非常に強固な歴史があり、ここにはそうした長い歴史を示すものがあります。
ここに来ると、信じられないような風景に加え、美しい植物、野生生物やその生息地が見られます。これらはすべて文化的な物語に織りこまれているのです。ここは初期の交易路として、そして後になって巡礼のために重要な場所となりました。アブラハムの三大宗教が交わる場所でもあります。文化の歴史、人間の物語、自然の物語の間には本当に素晴らしい相互作用があります。それを実現できることは本当に素晴らしいことです。
また、私たちはレンジャープログラムも開発しています。これは自然を保護し、人々が訪れたときに非常にポジティブな体験を得られるようにするための最初の仕組みです。私たちは地元の人々を訓練してレンジャーになってもらいます。レンジャーは管理責任を果たすことができるだけでなく、訪問者がここでの文化の物語を実際に活用できるようにお手伝いします。
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自然体験はここに来る人々にどのような変化をもたらすのでしょうか?また、自然環境にいることで人々のストレスが軽減されると思いますか?
自然の中で過ごす時間は、心身の健康を保つための最良の方法の一つであることを科学は数多く示しています。自然保護区では人々が再びつながり、健康的に過ごすための豊かな機会を提供します。居住者と訪問者にとって、NEOMはまさに息をのむような場所となるでしょう。それはここでの暮らしが平和で平穏だからです。
ウォーキング、マウンテンバイク、ロッククライミングなど、自然とのつながりを深めるためのさまざまな健康的なアクティビティがあります。私たちの哲学の一つとして、排除するのではなく、受け入れることによって自然保護を達成するというものがあります。私たちは人々が自然保護活動に参加する機会を作りたいと考えています。木や動物を守りたくない人がいるでしょうか?私たちは意図的に参加型の自然保護プロジェクトを立ち上げています。人々が参加したり、近くに立って学習したりするものですが、心が洗われる機会にもなるでしょう。
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NEOMが観光客、住民、ビジネスパートナー、投資家にとって魅力的である理由は何でしょうか?
脱工業化時代には、経済的機会と環境のどちらかを選択しなければならないという考え方が支配的でした。大まかにはこうして経済システムを構築してきましたが、現在そのような方法は逃れ難いレガシーとなっています。NEOMではそのような方法を取ることなく、自然保護が原則の一つとなっています。
私たちは環境を損なうことなく成長と経済機会をすべて体験できる経済部門を設計することができています。ここではビジネスに対する考え方が全く異なります。レガシーが存在しないことが、私たちの強みになっているのです。投資家はここに来て、私たちの事業に投資し、自然保護に貢献していると感じることができるでしょう。最初から設計されていれば、誰もが満足できる状況は実際に生み出せるのです。
住民にとっては、国立公園に住めるという考え方をすることができます。あらゆる住民が自然から5分程の距離に暮らしているからです。誰でも自然を体験することができるようになっています。ニューヨークにあるセントラルパークの隣に住む余裕があるのは最も裕福な人だけですが、ここでは誰もが自然に近いところに住んでいます。私たちは自然を復元していく計画を策定していますが、あなたがここに暮らすことになれば、あなたの裏庭は砂漠の荒野と野生動物が生息するサファリということになります。澄んだ青い海のビーチで泳げることは言うまでもありません。
そして観光客については、世界でほとんどの人が目にしたことのない風景やアラビアの原野を見ることができます。自然保護活動が完了すれば、この地域では何百年間も見られなかった風景や野生動物が見られるようになります。つまり、素晴らしいアトラクションとなるでしょう。
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NEOMはどのようにして地域の遺産と生息している野生生物を保護していくのでしょうか?
私たちは、自然保護区を国際基準に沿った保護地域のネットワークとして指定する予定です。国際自然保護連合は、保護地域の世界基準を設定しており、私たちは保護制度をそれに沿って調整を行っていきます。それにより、管理と保護について明確な仕組みを形成することができます。この仕組みは、保全遵守プログラムを通じて実施され、レンジャーはパトロールを行いつつ、人々がルート上とルート外のどちらにいるかを知るのに役立つテクノロジーを利用することになります。テクノロジーは自然を保護しながら、訪問者の体験を最大限にするのに役立つでしょう。
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多くの建設が行われている中で、人々は自然地域を保護し、保全することはどのように実現するのか尋ねてくるでしょう。それは大きな課題ではありませんか?
確かにNEOMは世界最大の開発プロジェクトになるでしょうが、その設計においては自然優先の原則が念頭に置かれています。それは工事期間中も適用されますし、もちろんあらゆることが環境・社会影響評価プロセスや世界銀行国際金融公社の環境・持続可能性基準に沿って開発されています。
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NEOM沖の紅海におけるOceanXの海洋探検はどの程度重要だったのでしょうか?
NEOMの海洋環境を科学的に探究する初めての機会でした。紅海北部のこの地域には世界で最も気候変動に強いサンゴが生息しています。ですからここのサンゴは本当に特別であり、とても高い水温にも適用できるのです。
この調査が行われるまでは他に何があるか分かりませんでした。2020年に6週間をかけて、ダイバーや潜水艇、遠隔操作船を使って、NEOMのあらゆる場所を探索することができ、紅海の最深部1.8キロまで到達することができました。
信じられないほど豊かな水中環境がそこにはありました。環境保護の機会だけでなく、保護の責任についても悟ることとなりました。私たちの海洋環境をどのように保護し、海洋保護地域をどのように確立するかについて考えを巡らせるきっかけになったのです。
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NEOMの自然に対するアプローチを通じて、将来世代の人たちに残したいレガシーとは何ですか?
NEOMは世界最大の開発プロジェクトですが、自然との調和を保ちつつ、自然を破壊することなく大規模な経済開発が実現できることを示しています。そのプロジェクトに参加することはとても刺激的なことです。それは世界に示すべき素晴らしいことであり、新しい基準を打ち立てることができます。そうすれば他の場所でも同じことが可能になるでしょう。
そして、世界的に重要な自然保護の成果を提供する機会が得られます。私たちはアラビアの野生生物を復元する最前線にいたいと考えています。自然のままの野生生物の生態系は今日存在していません。そのため人々は復元など考えることもないでしょうが、かつて野生生物たちは存在していたし、再び生態系を取り戻すことはできるのです。私たちは砂漠の生態系が再び日の目を見るように、自然保護の重要性や訪問者にとっての魅力を認識してもらいたいと考えています。
その実現には、テクノロジーの導入を加速させ、新しい分野を開拓する必要があります。世界中で採用・利用できる新しいアプローチを開発することで、植林の迅速なアプローチ、サンゴを回復させる方法、魚の個体数を回復させる方法などを開発します。私たちの目標は、障壁を打ち破ったり、世界の他の地域でもソリューションを加速させたりすることです。
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あなたのプロフィールとキャリアについてもう少し教えていただけますか?
私は自然が大好きで、故郷であるオーストラリアのあちこちでキャンプをしながら育ち、海洋環境も大好きになりました。それで私は15年間オーストラリア政府で働きグレートバリアリーフ海洋公園の管理をしていました。そこでの私の仕事は、陸の環境と海の環境がつながる部分を捉える方法や、それらのつながり方、そして生態系への気候変動のリスクを理解する方法について研究するものでした。
2000年初頭に、気候変動やサンゴの白化によるサンゴ礁が直面しているリスクに世界の注目を集め、気温上昇がどのように脅威を引き起こしているかについて理解することができました。変化に直面したとき、どのように生態系を管理し、保全するかを理解することが、私のキャリアで何度も取り組んだテーマでした。
ここNEOMにあるもの、かつてのNEOMの姿、そして将来に向けてできること。これらは私が本当にワクワクしていることです。また、オーストラリアのジェームズクック大学で非常勤教授を務め、ユネスコの世界遺産部門では国際自然保護連合のアドバイザーも務めています。
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NEOMでの日々の生活はどのようなものなのでしょうか?
この美しい自然の中にいるのですから、生活や仕事をするには実に素晴らしい場所です。平日は会議やデスクで多くの時間を過ごすことが多いので、週末になるといつも外に出て探検しています。美しいサンゴ礁でシュノーケルをしたり、壮大な山々を探検したり、手つかずの砂漠でキャンプをしたりしています。
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ここサウジアラビアでのプロジェクトに参加した決め手は何でしたか?
これまでにない方法で自然保護に取り組む機会がきっかけでした。世界中の他の地域では、自然保護は開発後に残された陸や海の部分で行うものであり、その場合でも予算は非常に限られ、経済発展、地域社会、農家との競争が非常に激しくなることが普通です。
私たちはただその場所を守るだけではなく、かつて存在していた生命力を取り戻します。それは大変な労力を要します。25,000平方キロメートルを超える世界クラスの自然保護区を設計し、提供する数世代に一度の機会です。世界中の人々がここに来て楽しめるものになる可能性を秘めています。
それに加えて、自然保護が私たち一人ひとりの暮らしに欠かせないものになる機会がある。国立公園は通常、冒険家や自然を特に愛する人たちが訪れる場所ですが、私たちは皆が楽しめる国立公園にしようと思っています。